
寒い冬にハフハフと言いながら食べるおでんは格別ですが、静岡県民にとっておでんは季節を問わず愛されるソウルフードです。
駄菓子屋の片隅で子供たちが小銭を握りしめて食べるおやつであり、仕事帰りの大人たちが赤提灯の下で酒を酌み交わす肴でもある。そんな生活に密着した存在が「静岡おでん」です。
一度食べればその濃厚な旨味の虜になること間違いなしの、静岡おでんの知られざる魅力と楽しみ方をご紹介します。
継ぎ足しが生む漆黒のスープと黒はんぺん
静岡おでんを初めて目にする人が例外なく驚くのが、スープの色の黒さです。これは醤油ベースの出汁に、牛すじ肉などを入れて煮込み、それを何年、何十年と継ぎ足しながら大切に育ててきた証です。
鍋の中が見えないほどの黒さに、「味が濃すぎて辛いのではないか」と身構えてしまうかもしれませんが、一口食べてみるとその予想は良い意味で裏切られます。
長い時間をかけて牛すじや練り製品から溶け出した旨味が複雑に絡み合い、見た目とは裏腹に角の取れたまろやかで奥深い味わいに仕上がっているのです。
この黒いスープの中で存在感を放つ具材が、静岡名物の「黒はんぺん」です。
通常の白いハンペンとは異なり、サバやイワシを骨ごとすり身にして作られるため、色がグレーで、魚の風味がギュッと詰まっています。独特の歯ごたえと強い旨味を持つ黒はんぺんは、濃厚なスープとの相性が抜群で、静岡おでんを語る上で絶対に外せない主役級の具材です。
他にも、味が染み込みすぎて茶色くなった大根や卵など、すべての具材が串に刺さっているのも、駄菓子屋文化の名残である静岡おでんの特徴です。
味の決め手「出汁粉」と「青のり」の魔法
静岡おでんを完成させるために欠かせない最後の工程、それが「出汁粉(だしこ)」と「青のり」をかけることです。出汁粉とは、イワシやサバの削り節を細かく粉末状にしたもので、これを食べる直前にたっぷりとおでんの上から振りかけます。
魚介の凝縮された香ばしい香りと旨味がプラスされることで、おでんの味に一層の深みとパンチが加わります。
この粉をかけないと静岡おでんを食べた気がしないという地元の方も多く、まさに味の決め手となる魔法の粉です。青のりの磯の香りもアクセントになり、濃厚なスープの味を引き立ててくれます。
また、お店によっては甘めの味噌ダレを用意しているところもあり、出汁粉と合わせて味の変化を楽しむことができます。
お皿に取り分けた後、自分の好みに合わせてたっぷりと粉をかけ、熱々の具材を頬張る。口の中に広がるスープのコクと魚粉の香りのハーモニーは、白ごはんのおかずとしても、ビールのお供としても最高です。
横丁文化と駄菓子屋系、二つの楽しみ方
静岡市内には、「おでん」の赤いのぼりを掲げたお店が数多く点在していますが、そのスタイルは大きく「駄菓子屋系」と「居酒屋系」の二つに分かれます。
駄菓子屋系は、その名の通り駄菓子屋の一角におでん鍋が置かれており、子供たちが学校帰りにお小遣いで一本また一本と食べるスタイルです。
店先で立ったまま、あるいは簡易な椅子に座って気軽に食べる雰囲気は、昭和の時代にタイムスリップしたかのような懐かしさを感じさせてくれます。
一方、夜の楽しみとしておすすめなのが、「青葉おでん街」や「青葉横丁」に代表される居酒屋系です。昭和レトロな雰囲気が漂う細い路地に、カウンター数席だけの小さなお店がひしめき合っています。
赤提灯に誘われて暖簾をくぐれば、目の前には湯気を上げるおでん鍋と、気さくな店主が待っています。
隣り合わせた常連客と肩を並べ、静岡の地酒やお茶割りを片手におでんをつつく時間は、旅の夜を彩る最高の体験となるでしょう。
それぞれの店が守り続ける秘伝のスープの味を巡りながら、地元の人情に触れるはしご酒も、静岡ならではの粋な楽しみ方です。
